四神の力を借りた術は晴明の気力と体力を削り、やむを得ず数刻横になった後きっちり直衣と烏帽子を着こなした晴明は、主さまの屋敷に向かった。


とにかく今のままでは母体もしくは腹の中の子にも悪い。

主さまが消えた理由はあの女絡みだとわかった以上、晴明は包み隠さずそれを息吹に話す責務があった。


「おや、息吹…起き上がれるようになったのだね。体調はどうだい?」


「…なんだかわからないけど…胸騒ぎがして…」


胡蝶の件の時にも息吹はかなり痩せたが、飲まず食わずの状態が続いたため息吹の頬はこけて、今にも衰弱して死んでしまいそうに見えた。

それでも背筋を正して縁側で正座をしていた息吹の瞳は、久々に生気の光を宿して両手で大きくなった腹を包み込む。


「父様…主さまの居場所がわかったんでしょ?」


「…そうだが、そなたには酷な光景だった。それで…察してほしい」


「……主さまは怪我をしてるの?」


「していないように見えた。息吹…心を落ち着けて聞いてほしい」


身体が冷えないように息吹には袢纏を着せられ、回りにはありったけの火鉢が置いてあった。

晴明の言葉を受けてあまりに聞くに堪えない話なのだと悟った息吹は、覚悟を決めて唇を強く引き結んだ。

そして晴明が口を開こうとしたその時――


「十六夜の居場所がわかったのならば、息吹をそこまで連れて行けばいい」


「…銀…だが息吹は身重故…」


「息吹に実際に見せるべきだ。十六夜が何故1ケ月も行方をくらまして何をしているかを」


まるで晴明が見てきた光景を一緒に見ていたかのような口ぶりの銀の庭の木立の影から現れると、息吹は久しぶりに少し笑んで隣に座った銀のふかふかの尻尾に触れる。


「銀さん…私が泣いたら…慰めてくれる?」


「…いいとも。以前言ったように、お前のことを妹のように想っている。十六夜がどういう状況にあれど、俺がお前の味方になってやる。わかったな?」


「はい。私だって……寝込んでる間ずっと考えてたの。どうすればいいかって…」


――息吹は何かしらの覚悟をしているように見えた。


晴明は屋敷の前に使役している緑色の鬼が引く牛車を用意すると、銀が息吹を抱き上げて中へと運び込む。


「息吹…覚悟はできているんだね?」


「はい。父様…銀さん…ありがとう。私…ちゃんと見るから」


息吹は…

何かしらの覚悟をしているように、見えた。

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