地主神に安心感を与えられた息吹は、少し寄って行ってと縋ってきた山姫の願いを断れずに縁側に座ってお茶を飲んでいた。


皆の視線が腹に集まってくるのを感じる。

最近は歩くにしても身体を逸らして歩いているので腰も痛くて身体中が悲鳴を上げていた。


「あんた…大丈夫なのかい?晴明は本当に赤子を取り上げることができるんだろうねえ?」


「私に任せておきなさい。逆子ではあるが、地主神殿よりお墨付きを頂いたのだ。ちゃんと産まれてくると」


「そうなのかい?でも心配だねえ…。息吹、主さまと会ったかい?あんたのことばかり心配して百鬼夜行にも身が入ってないって百鬼たちにからかわれてるんだよあの人は」


湯呑を持つ手が止まった息吹は、主さまがとても心配してくれていることをありがたく思いつつ表情に出さずに曖昧に頷いた。


「でも私これからはひとりでこの子を育てていかなくちゃいけないし…。あ、父様や母様や雪ちゃんも居るけど、私もうここには戻って…」


「駄目だよここはあんたの故郷でもあるんだ。どうしてもっていうのなら主さまには会わなくてもいいから、あたしたちには赤子を見せに来ておくれ」


「うん、考えておくね。じゃあ私そろそろ戻らなくちゃ」


「道長が幽玄橋まで迎えに来ているらしい。息吹、さあ行こうか」


晴明に身体を支えてもらいながら立ち上がった息吹は、隣に姿を消して立っていた主さまを通り越して山姫たちに手を振ると、幽玄町を後にした。


そんな息吹の後ろ姿を見守っていた主さまの姿がばっちり見えている山姫は、やれやれとため息をついて主さまの不器用さを憐れむ。


「別に姿を現してたっていいじゃないですか。前みたいに話さなければいいんですよ」


「……俺が傍に居ては息吹の心が乱れる。…無事に子を産んでもらいたい。今はそれだけだ」


「俺…息吹の子を抱っこしたい。産まれたら平安町に行ってもいいか?」


今も息吹に恋焦がれている雪男の真っ直ぐな視線を真っ直ぐに返した主さまは、ここだけは断固として口調を強めた。


「駄目だ。いいか、俺は離縁の申し出を受理していない。俺たちは…まだ夫婦だ。お前は口出しをするな」


主さまは息吹を諦めていない――

言い放った主さまは、夕方になるまで再び姿を消して平安町の息吹の元へと向かった。

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