檻の中に閉じこめてもうどの位になるだろうか――


酒呑童子を檻の中に封じ込めることのできる術を使える妖はもう使い切ってしまった。

茨木童子は檻の奥の方の暗がりでじっとこちらを見つめている酒呑童子の視線と殺気にさらされ続けて、気が狂いそうになっていた。


もうこれ以上ここに封じ込めることは適わない。

こちらは疲弊しているのに、酒呑童子は力を溜めこみ続けている。

もうほとんど寝ずに酒呑童子を見張り続けていた茨木童子が一瞬ふっと息を吐いた瞬間――


特殊な術をかけた柵がぴしっと妙な音を立てた。

はっとなった時はもう時すでに遅しで、柵を挟んだ真向かいにはいつの間にか酒呑童子が微笑を浮かべて立っていた。


「もうこれ以上は無理のようだな」


「しゅ…酒呑童子様…いけません。あの女のことはもうお忘れ下さい!あなたにはもっと大きな野望があるでしょう!」


「…お前は俺の出自を知っているか」


問われた茨木童子は、檻から後ずさりながら喉を鳴らしてその問いに答えた。



「あなたは……鬼八様の弟君にあたる方の血統です」


「そうだ。本来鬼八様が百鬼夜行を継ぎ、すべての妖を総べるはずだった。それを華月が阻んだ。茨木童子…あの男は華月の血統だ。俺が鬼八様の無念を討つべきなんだ。わかるな?俺は忘れていないとも。…椿姫の件はまた別の話だ」


恋が報われぬまま、華月に横恋慕をされて策略に嵌められてしまった可哀そうな鬼八。

鬼族はその後混乱に見舞われたが、鬼八の次に力のある華月に代を委ねる術しか残されていなかったのは事実。


妖は、力こそが全て。


「何故そこまであの女にこだわるのですか!?」


「…お前にはわかるまい。俺とて最初は認めたくなかった。だが…」


鬼八が柵に触れた瞬間、まるで熱で溶けたかのように柵が崩れ落ちた。


殺される――茨木童子は恐れをなして制裁を待ったが、それはやってこなかった。


恐る恐る顔を上げると、酒呑童子はゆっくりと檻から出てきて茨木童子の眼前に立って静かな瞳で見下ろした。


「椿姫はあの憎き男の元に居る。俺は取り戻しに行く。お前はついてこなくていい」


「酒呑童子様……。…俺はあなたについて行きます。あなたが間違っているとしても」


酒呑童子は手を伸ばして茨木童子を立ち上がらせた。


笑顔で――

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