昼まで仮眠を取ってから潭月と周に会いに行くと、2人は揃って別れを惜しんでくれた。

特に周は本当に寂しそうな表情をしていたので、なんだか今生の別れのような気分になってしまった息吹は涙ぐんで周の手を離さなかった。


「お義母様…名残惜しいです…」


「わたくしもじゃ。今度は私が会いに行く。そなたのこと故、わたくしが住んでいた頃よりもきっと居心地が良いであろうな」


「そんなことありません。でもお義母様がいつ遊びに来て下さってもいいようにいつも以上に綺麗にしておきますから」


涙を袖で払ってくれた周は、潭月が主さまを庭の隅の方に呼び寄せたのを見て、それを息吹に見せないように息吹の手を引いて縁側に置いていた風呂敷を指した。


「わたくしが作った柏餅じゃ。十六夜はわたくしが作った柏餅が大好物故、幽玄町に帰って食しなさい」


「わあ、ありがとうございます!私が作ったお団子とお饅頭全部食べて下さって嬉しかったです。また作って来ますね」


周が息吹の関心を引くことに成功していた頃、潭月は2人きりになるのを嫌がる主さまの肩を無理矢理抱いてこそりと囁いた。


「お前に訊ねたいことがある」


「なんだ、早くしろ」


「お前は鬼族の長となる男。故に妻を何人も持つことが許されている。お前は息吹姫だけでいいんだな?」


それまで冷静だった主さまの瞳に瞬時にして苛烈な光が激しく瞬いた。

一瞬刺されたかと思うほどに痛い殺気を直接浴びた潭月は、以前より力の増している主さまを誇りに思いつつも同時に恐れも感じ、さらにぐっと顔を近付ける。


「それが答えか。聞くまでもなかったな」


「…息吹には言うな。言うと本気で殺す」


「言う必要はないだろう。俺たち一族は鬼八を封じるために血筋を絶やすわけにはいかなかった。だが今や鬼八は昇華し、俺たちが純血の血を守る必要もなくなった。お前はお前の好きなように生きるといい」


無表情ながらも怒っていることだけは雰囲気で伝わったのか、息吹がそんな主さまに気付いてどうしたのかという顔をして駆け寄ってきた。

主さまは殺気を消して息吹に悟られないようにすると、優しい嘘をついた。


「こいつがまた俺をからかったから怒っただけだ。もう帰るぞ」


「うん。潭月さん、お義母様、また遊びに来ます!絶対!」


「お気をつけなさい。十六夜、息吹姫を頼みましたよ」


「はい。お元気で」


八咫烏に乗って空を舞う。

息吹はいつまでも手を振って別れを惜しんだ。

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