主さまのきりきりはまだ続いていた。

幽玄町に着いたのが夕方だったため、着いて早々百鬼夜行に出なければならないのだ。

鵺や猫又がひっくり返って腹を出して息吹に可愛がられているのはまだいいが…雪男と親しくしていることについては例外。

完全な人型をとれる妖は数少なく、力の強い証だ。

大きかった頃の雪男は男も見惚れる程の色男だったが、なにぶん息吹以外の女に全く関心が無く、一切女遊びもしない。

心の通じた女とでなければ身体が溶けて無くなってしまうので、自分が息吹と離縁するのを虎視眈々と待っているのだ。


「息吹、俺が毎日花の水遣りしてたんだぜ。銀からもらった珍しい花から種が取れたから今度一緒に撒こう」


「うん、ありがとう雪ちゃん。主さまは今から百鬼夜行だよね。父様母様、積もるお話が沢山あるの。聞いて聞いて」


相変わらずはつらつとしている息吹がぴょんぴょん跳ねてはしゃぐと、晴明は瞳を細めて笑みながら息吹の肩を抱いて縁側に座らせた。


「では今宵は泊まらせてもらおうかな?」


「はい!父様一緒に寝ようよ。あ、主さま行ってらっしゃい、気を付けてね」


…高千穂の実家へ帰っていた時は息吹を独占できたのに、帰ってくるなり息吹は皆に取り囲まれてしまった取りつく島もない。

それでも手を振って見送りをしてくれた息吹をちらっと横目で見た主さまは、息吹に群がろうとする百鬼を一括した。


「お前たち、何をしている?行くぞ!」


びくっとなった百鬼たちはどんどん先を行ってしまう主さまを追いかけて空を駆け上がり、晴明は八咫烏に小さく会釈をして空へ帰すと含み笑い。


「ふふふ、やはり十六夜が居らぬと張り合いがない。たっぷりと可愛がってやろう」


「父様、主さまをあまりいじめないでね。私ちょっと赤と青のところに差し入れに行ってきます」


帰って来て早々休むどころか台所で巨大なおにぎりを2つ作ると、それを風呂敷に包んで屋敷を飛び出して行った息吹を慌てて雪男が追いかける。

晴明と山姫は顔を見合わせて苦笑し、銀は息吹が屋敷を出る直前にもみくちゃに触られて毛羽立ってしまった尻尾を撫でて毛並みを落ち着かせながら噴き出した。


「とんだじゃじゃ馬だな。十六夜は今後もさぞ息吹に振り回されることだろう」


「そうでなければ面白くない。仕方ない、私も娘に加勢してやろう」


晴明が生き生きとしてしまい、山姫は呆れ果てながら団扇で顔を仰いで元気に戻って来た娘の帰還を喜んだ。

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ファンタジー  妖怪    男目線  切ない  溺愛  きゅんきゅん 

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