眠った主さまをそっと床に寝かせた後、屋敷のあちこちを掃除したり花の水遣りをしているとあっという間に昼が過ぎてしまい、慌てた息吹は化粧も忘れて草履を履くと、雪男を呼んだ。


「雪ちゃん、幽玄橋に行くよ。雪ちゃん?」


「ちょっと待てって。今日めっちゃ暑いし…。これが無いと溶けちまう」


丈夫な番傘を手に夏ばてした様子で出て来た雪男に無理をさせるわけにはいかないので、息吹は草履を履こうとした雪男の肩を押して無理矢理座らせた。


「雪ちゃんが溶けたら大変だから残ってて。大丈夫だよ、すぐに戻って来るし、主さまにも義経さんのことは言ってあるから」


「でも…ほんとに大丈夫か?きっと晴明が式神飛ばして監視してるだろうから、なんかあったらすぐ助け呼ぶんだぞ」


「うん、ありがとう。じゃあ行って来るね」


屋敷を出て賑やかな通りを歩くと、息吹に気付いた住人たちがあちこちで頭を下げてきた。

息吹も会釈をしながら声をかけてくれる住人たちと軽く会話を交わしながら幽玄橋に向かい、遠目にすでに義経が幽玄橋の上に立っていることに気付いて、慌てて小走りをする。


「息吹、走ると危ないぞ。…なんだあいつは。昨日も来ていたじゃないか」


「赤、青、あの方を脅かしちゃ駄目だからね。私の友人を支えてくれる人なの。絶対怖がらせちゃ駄目だよ」


「うむ、お前の頼みならば断われないな。だがおかしなことがあったらすぐ駆けつけるからな」


主さまにしろ雪男にしろ赤鬼や青鬼にしろ――皆が揃いも揃って過保護でつい苦笑してしまう。

わいわいやっていると義経が気付いたらしく、昨日と同じく朱色の甲冑姿で、軽く会釈をしてきた。


「遅れちゃってごめんなさい!…いつから居たんですか?すごい汗!」


「ああ、少々早めに着いてしまって…。息吹姫、その…今日もお美しい」


一瞬何を言われたのかわからなくて目をぱちくりさせていると、義経の顔がみるみる赤くなり、その反応が可愛くてつい笑ってしまった息吹は、背伸びをして頬を伝う汗を手拭いで拭いてやった。


「ありがとうございます。あ、でも私お化粧してないし…御世辞でも嬉しいです」


「世辞などでは。息吹姫…あなたは本当にあの大妖の妻なのですね」


「はい。主さまは私の命の恩人で…とっても優しくて可愛くて面白い人なんですよ」


義経がはにかむ。

息吹も笑みを返して、涼しい風を一緒に浴びた。

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ファンタジー  妖怪    男目線  切ない  溺愛  きゅんきゅん 

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