夢現に、庭の方で、ことん、という何か固い音のようなものが聞こえた。

基本的に早寝早起きの息吹はその音で目覚めて、ぼうっとしたままむくりと起き上がる。

…そろそろ主さまが帰って来る時間だが…もう戻って来たのだろうか?


「主さま…?」


そうだ地主神様の所にも行かないと、と呟きながら障子を開けると――

縁側には、溶けないように術をかけて作られた薔薇を文鎮代わりに、1通の文が置かれていた。

まだ頭が覚醒していない息吹は四つん這いのままのそのそと縁側に出て正座をして文を手に取る。


「あ…雪ちゃんから…?」


『息吹へ。恋文を書くって言ったけど何を書いたらいいかわからないんだ。はじめてお前と会った時は赤子で、まさかこんなに惚れるとは思ってなかったけど、好きだ。ずっと待ってるから、早く主さまと別れて俺と一緒になれよ。俺はお前しか考えられない。好きだ、息吹』


――かあっと顔が赤くなるのを感じた。

途端に頭が覚醒して、身悶えしてしまった息吹は文を胸に抱きしめて辺りをきょろりと見回す。

雪男の姿はなく、また主さまもまだ帰って来ない。

これを主さまに見られたらものすごく怒るだろうが…隠し事はしたくはない。

考えた息吹は、主さまには口に出して言わないでおこうと決めたが、文は主さまも使う机の引き出しに入れた。


「雪ちゃん…」


「呼んだか?」


「きゃっ!?い、いつからそこに居たの!?」


「それをそこに置いてからずっと花のとこに隠れてた。…なんか…照れくさいけど…どうだった?」


雪男も主さまに負けず劣らずいい男だ。

真っ青な髪と瞳はとても美しく、肌は色白ですべすべしている。

隣に腰かけられて緊張してしまった息吹は、声を上ずらせて頭を下げた。


「こ、恋文をありがとう。義経さんのも素敵だったけど…雪ちゃんのも…うん…」


「氷雨、って呼べよ。呼んでくれないと抱き着くぞ」


嘘ではない証拠に浴衣の袖を大きな手でぎゅっと掴まれると、息吹はぎゅっと瞳を閉じて早口でその名を呼んだ。


「あ、ありがとう氷雨。嬉しかった。主さまは書いてくれないから」


「ん。まあ…あの堅物が恋文なんて書けるかな。俺また書くから。お前も俺に書いてくれよ」


「それは駄目っ。義経さんにも言ったけど、私…人妻なんだよ?」


「知ってるし。別に関係ないし。待ってる、って書いたろ」


氷でできた妖だが、情熱的。

主さまが戻って来る直前まで、口説かれ続けた。

この作品のキーワード
ファンタジー  妖怪    男目線  切ない  溺愛  きゅんきゅん 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。