小さなくまさんの世界
「みーみー?」
「そう。あのね、ここはどこか教えて」
「ここは森だよ」
 それは見ればわかるよ。そうじゃなくて。
「えっと、人のいるところはわかる?」
 クーちゃんはしばし考えてから、顔を上げた。
「わかりません」
 ごめんね、ごめんねとひたすら謝るクーちゃんを宥めながら、どうしようと考える。
「のどが渇いたな」
 クーちゃんはその言葉にピクッと反応し、私の手を引いた。
「美海、おいで」
「どこに連れて行ってくれるの?」
「店!」
 店?そこならここからもとの場所まで戻る方法を知っている人が誰かいるかも!
 私が案内された場所は何度見渡しても信じられないところだった。
 服屋、パン屋、薬屋、レストラン、花屋などとたくさんの店があるにもかかわらず、人が一人もいない。いるのはたくさんのくまのぬいぐるみだった。
 カランカラン
 気がついたら、私達はパン屋へ入っていた。
「クーちゃん、お金!」
「ん?」
「いや、持っているの?」
 私はポケットの中に手を入れたが、何も入っていなかった。
「ないけど、大丈夫だから」
 顔面蒼白になっている私と違って、クーちゃんは鼻をクンクンとさせて、パンの匂いにうっとりとした顔になっている。
 大丈夫なわけないでしょう。きちんと金を払うということを知らないの?
 どうしようとおろおろしていると、店の人ではなく、くまが気がついた。
「いらっしゃいませ」
 にこやかに笑っているくまを見て、私は言葉を失うばかりだった。
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