かぐや皇子は地球で十五歳。
第5章 ゆかり様の新生活。
「ゆかり様……あ~ん♪」
「あ、アメリ……もうお腹いっぱいですから!……もふ!」
「ゆかり様、カプチーノで宜しいですか?マキアートにしましょうか。」
「もふもふ……ふぁ、雅宗さん!野菜のスムージーにリンゴジュース、紅茶にコーヒーまで手を出したら頻尿になっちゃいます!お腹ちゃぷちゃぷです!」
「ゆかり様……あ~ん♪」
「いい加減にして──────────…もふ!」

 金髪メイドが私の口にパンをちぎって詰め込み、黒髪執事が肩越しに控え茶注ぎに勤しむ朝の食卓。早朝の眩光がカフェテラスに降り注ぐ、柏木家へ引っ越して3日が経過した。

「アメリさん、着替えるので入ってこないでくださいね!」
「フリですね?」
「違います!」

 螺旋階段を上り、玄関口から奥へ二つ目の扉が私の与えられた部屋。十畳ほどの空間には晃の部屋と同じくダークブラウンの家具で統一されており、ベッドにはグリーンの壁紙に合わせ甘いサーモンピンクのシーツが敷かれている。初めてこの部屋に入った時は鼻血がでるほど喜んだけど、庶民体質にどうも合わないらしく一人になってもソワソワと落ち着かない。
 お嬢様風情のインテリア。金髪メイドと黒髪執事。長屋に住む貧乏娘はフランス貴族の隠し子でした的な展開。

「ゆかり様~~~♪」
「ギャ────────!!アメリ、入ってこないでってば~!」
 ゆかり様パンツまるだしです!
「ですがぁ…8時5分回ってしまいましたよぉ?」
「え?あ!本当だ……!遅刻しちゃう~!」
「では私めが右靴下を……」
「そーとーでー待ってて──────!!」

 それにしてもこの二人の変貌ぶり、どうにかならないものだろうか。
 雅宗さんはいつも一歩後ろに控え執事そのもの。初日の朝には枕元で立っていて「モーニングコーヒーでございます。」なんて言い出すからゆかり様は大絶叫。終始無言でやり過ごそうとすると、夕食時には黒執事ヨロシク涙を溜めて「仰せ言はございませんか。」と抗議してくる。
 アメリはさらに達が悪い。「お召し換えを。」「お背中流します。」何かにつけて私の全裸を一目見ようと企んでいる。昨夜には「マッサージです。」なんて肩揉んでくれたから身を任せてみれば、ワンピース脱がされたからね!怖い!ガールズラブ始まりそうで怖い!

「いってらっしゃいませ、ゆかり様。」

 毎朝毎夕、律儀に雅宗さんが学園坂下まで送迎車をだしてくれる。七人乗りの白いバンに当然アメリも乗り合わせ、降りるなり深く頭を下げたまま動かないから私は校舎まで猛ダッシュしなければならない。お陰様で足腰強化されました。無駄なレベルアップ!

「ゆかり、おはよう!」
「おはよう、ゆかりちゃ~ん!」

 そして仁王像のように下駄箱で待ち構える二人の友達。 私の通学条件は「単独行動の禁止」つまりは学校でも放課後でも、私に一人の時間は一欠片も与えられない。万年ボッチゆかり様は今までとは真逆な生活を強いたげられている。
 それ相応の理由あってのことなので、納得はしているが。

「ほら、あの人だよ……。」
「よく学校来れるよね、神経図太すぎ。」

 私の噂話が耳を通る度、慶子は周りの生徒を般若の如く睨み付け、坂城くんが心配そうに私の顔を覗き込む。でも私は罵馴れているし、罵る側の気持ちも理解しているから大して気にはしていない。

「眞鍋さん、おはよう。」
「おはようございます。」

 すっかり顔見知りとなった刑事二人と階段へ向かう廊下ですれ違う。事件から5日経過するというのに、未だ学園内は警察関係者が彷徨いていた。
 4月22日、あの日の夜──────────
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