むかし、知人の誰かが言っていた。

人は辛いことや悲しいこと、そういった嫌な記憶を忘れるようにできている。

そうしないと、苦しみや悲しみに押しつぶされて生きていけていけなくなるのだと。

いつ誰がどこでそんなことを言ったのかはもう忘れてしまったけれど、そういう話を聞いたという記憶だけはしっかりと残っている。

そして、その話をときどき思い出す。


果たしてそれは本当にすべての人に当てはまるのか……

思い出してはついそんなことを考えてしまう。

考えてしまうのは、私にはそれがずっと前からあてはまっていないような気がするからだ。

私はことあるごとに、ものごころついたときから今までの苦い思い出や嫌な思いをした出来事を思い出す。

電車に揺られているとき、ひとりきり道を歩いているとき、湯船に浸かって一日の疲れを癒しているとき……