夢の欠片
第五章【記憶】
休み時間はクラスの人たちに囲まれて身動きできなかったけど、昼休みになってようやく自由になった私は、羚弥君のところへ行った。


学校に来たら、絶対にやろうと思っていたこと。その遂行のために。


「羚弥君、陽菜ってどこのクラス?」


「隣。二組」


「ありがと」


たいした距離でもないのに、私はそこへ向かって走って行った。


教室を覗くと、陽菜が目を見開き、駆け寄ってきた。


「優奈! 優奈だよね!?」


「うん……って、どうしたの!?」


これから謝ろうと思ってたけど、突然陽菜が泣き出して、思わず慌ててしまった。


「ごめんね……優奈。私のせいでいじめられたのに、私何もしてあげられなくてさ、頼りになれなくてさ……」


そうじゃない、そうじゃないのに、陽菜は謝ることをやめなかった。


「優奈がいなくなってから、事故に遭ったんじゃないかと思った時もあったし、死んじゃったんじゃないかって思った時もあった……ずっとずっと後悔してて……」


こんなに心配させてたんだと思うと、胸が痛くなった。


「本当にごめんね、許してなんて言わないからさ、私のこと殴ってもいいからさ……」


「陽菜、陽菜は何も悪くないんだよ」


私は陽菜の手を握った。


「私ね、今でも自分って情けないなって思う。結局自分だけじゃ何もできないのに、いっつも伸ばしてくれてたこの手を離してしまった。私の人生で初めての、かけがえのない友達である陽菜を……あの時、陽菜に別れを言って走って行った時、そんな人を失ったと思って本当に辛かったんだ。だから、今会えて最高に嬉しい」


「優奈……」


『お前のために泣いてくれる友達がいるということを頭の中に入れておけ』


ふと羚弥君の言葉が蘇った。私は幸せ者だ。こんなにいい友達を持てて。


「今まで本当にごめんね。これからはまた、一緒に遊んだりしようね!」


「うん!」


陽菜が笑顔を見せた。昔の学校用じゃない、陽菜らしい本当の笑顔。


「そうだ、学校案内してあげる!」


「あ、うん……って歩くの早い!」


「早くしないと昼休み終わっちゃうもーん」


陽菜、またよろしくね。そう心で思って、走って陽菜を追いかけていった。
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