鬼姫の願い
揺れる影
「はぁ、はぁ…っ」
「…っはぁ」
暗い廊下に響く二つの荒い息遣い。
無論、その主は離れまで全力疾走してきた輝宗と景綱である。
その顔には隠すことなく不安と焦りが浮かんでいた。
辺りに不審な気配はない。
その事に顔を見合わせると、二人はそのまま梵天丸がいる部屋へと足を進めていく。
時々ギシリと音を鳴らす廊下の板が二人の緊張感を煽った。
慎重に、しかし可能な限り早く進められる歩み。
輝宗たちが梵天丸のいる部屋に近付いたとき。
部屋の障子の前に一つの影が見えた。
「輝宗様…あれは…」
「しっ!少し待て」