【B】星のない夜 ~戻らない恋~

9.居場所のない時間 前編  -怜皇-


都城咲空良が俺の家に入ると連絡があって以来、
両親の邸に帰るより、自宅に帰るより、
こうして睦樹のマンションに転がり込む方が精神的に楽だった。


三月が過ぎ、カレンダーは四月へと映る。



『怜皇さん、幾ら私の想いを伝えたとはいえ、
 一度くらい婚約者の元に姿をみせてはいかが?』



都合のいいことばかり、養母から電話が入る始末。


そんな電話内容も、仕事が立て込んでいるのでっと
断って、今、熟せる仕事を見つけ出してはそれに没頭し続けていた。


出張が絡む仕事は優先的に。
日帰りで帰ってこれた日は、こうして睦樹の部屋に転がり込む。



三月末で瑠璃垣を退職して、四月から正式に廣瀬電子工業での正社員となった
アイツはまだ帰ってきてない。




今日も携帯の時計が22時をさした頃、
睦樹から預かっている合鍵を使って、マンションへと入ると
ネクタイを緩めシャツのボタンを開けてソファーへとドカっと持たれかかった。



今日も何度もかかってくる、自宅と養母からの着信を確認して
携帯をテーブルへと軽く放り投げる。





何やってんだよ、俺は……。
どうしたらいんだよ、一体。






答えが見つからない問いに一人、悶々とし続ける時間。



テーブルの上、綺麗に並べられているTVのリモコンに手を伸ばして
電源ボタンを押すと、TVは今日のニュースの放送を始める。



海外の戦争の様子を映し出すニュース映像。


そんなニュースをボーっと耳にしながら、
放り投げた携帯電話を引き寄せる。




祖父である会長が、
先代都城会長と言いかわした約束による婚約者の存在。


ファイル画面から、昔の写真を引きづりだす。






その写真の中には、幼い頃に婚約者と撮影した1枚の古い写真が
データーでおさめられていた。


カメラで撮影した写真を、データーとして取り込んで保存されてある
その写真は祖父である会長からつい最近、送信されてきた出逢いの瞬間の写真だった。



幼い俺が手渡したオレンジジュースのコップを受け取って、
その小さな両手でグラスを掴んで、飲んで笑った瞬間を切り取った
笑顔の着物姿の女の子。



次の写真には、俺と咲空良さん、そして会長と都城会長の4人が
笑顔で1枚の写真におさまっている、そんな時間だった。





今でも……あの時の出逢いは覚えてる。
あの頃から、俺は会長に『許婚」だと聞かされていた。



だけどあの後、何度かで会う機会はあったが……
その時に、彼女からそんな昔の話題が出てくることはなかった。




俺の存在すら、覚えていないそんな人を
俺は……愛することが出来るのか?
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