フロアに流れる静かなジャズピアノのメロディと、ひそやかなざわめき。
店内に居る客層は上品で、落ち着いた雰囲気に包まれている。

繊細な飾り付けで彩られたディナーを前に、ろくに味わえないまま機械的に喉奥へと押しやる。
早く終わって欲しいとそればかり脳内を巡っていたが、テーブルを挟んだ向かい側に座る男の一言でそれまで聞こえていた音の一切が遮断された。

何も返せずに凍りついてしまった真那に、男の視線が緩やかに向けられる。

「――聞こえなかったか?」

その男の声だけがやけに大きく耳に響く。
目線が合った、その一瞬にチリと電流が真那の身体に流れた。

是まで何度も彼の顔を見て会話したというのに。

「君の価値を、俺が見出してやる――と」

高慢な物言いをする男の口元が弧を描いた。

自分の価値――そんなものが何処にあるのかと言い返したかったが、唇は微かに震えるだけで言葉が出て来ない。

ただ、男の視線を受け止めるだけで精一杯だった。

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年の差  偽装  シリアス 

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