ハロー、バイバイ!
バイバイ…


誠はダークスーツを着て、地味な青系のネクタイをしていた。


「三ツ木さんていつも廊下歩く時、下向いて考え事しているんですね」


他人を装って美紗は笑って言う。
演技してるみたいだ、と思った。


「大丈夫?ついね。癖なんだ」

はにかんで笑ったあと、誠は周りを見渡し、人目を盗んで小声で言った。


「来週の土曜日、一緒に埼玉にいってくれないか?」

「埼玉?何しに?」


美紗の問いに誠は、仕事の話をするように答えた。


「きららのピアノの発表会なんだ。
最後に見るだけだから。逢わない。
それは向こうとの約束なんだ。
それで、俺はきららの人生から身を引く」

「えっ…」


美紗は驚いた。
久しぶりに誠の口からきららの名をきいたが、そんな話になっていたとは。


よおっす。と誠に声を掛けて、誰かが横を通り過ぎた。
誠もおう、と応える。


誠は美紗に向き直った。


「俺、ヨシダさんに図面もらってこれから得意先に行くから。
仕様変更があったらファクスするから、すぐ直しの図面、送り返して。
あと、埼玉の件も考えておいて」


そう言って、誠は軽く右手を上げ、美紗から離れた。


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