優しい爪先立ちのしかた
私の項


フェンスの向こうに栄生の姿がみえた。

隣街の大学に行った男の先輩と笑いあっている。あ、嫌な予感、と胸の中を通り過ぎるカナンの冴えた予感。

「あーあ…」

唇を重ねる二人。

そういえば湿気の嫌な匂いが最近鼻につく。もうすぐ梅雨だ。

「先輩? 部長が呼んでますよ」

「あ、今行くよー」

後輩の声にこちら側に戻る。部長が顔で早く来い、と示していた。



トントンと肩を叩かれた栄生は素直に振り向いた。

ぷに、と頬に人差し指が差し込まれる。同時に栄生の眉が顰められた。細くなる眼光が、いつもより鋭く感じるのは気の所為ではない。

「栄生ちゃん、宿題写さして」

「うん」

カナンの机の上に宿題が乗せられた。

栄生の視線は窓の外を向いたまま。



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