think about you あの日の香りとすれ違うだけで溢れ出してしまう記憶がある
think

出会いは一目惚れ

「おれは、中西さんと、結婚したいんだよ。」


人生初のプロポーズは、24歳。

わがままで、幼稚で、素直すぎた経験。

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「トイレとか。ナイでしょ。」

本社の女子トイレで、ボヤきながらジャージに着替える。

初出勤だから、スーツでキメてきたってのに、
いきなり体力測定でジャージに着替えるように言われた。

二日酔いでダルい上に、更衣室も用意出来ないアホ人事にムカついていた。

大学時代にほとんど、使わなかったジャージに体育館シューズ。

まぬけな容姿が鏡に写る。

中西愛子。4大工学部卒、自動車メーカーに入社。

同期は男3人と、高卒の現場作業員20人程。

(私、やってけるんかな。てかさ、友達できるかな。)

奨学金の返済と寿退社を夢見て、実家近くの大手下請けに就職を決めた。

しかし、この同期連中の中に結婚相手なんて見えない。

どんなに目を凝らしても、、、見えない。。。


「中西さん、こちらへどうぞ。」

人事の呼びかけに応えて立ち上がる。

ポケットにずしりと重たい感覚。

(財布。持っていると、マズイかな?誰に預けようか?)

周囲を見回して、目に止まるその人。

花壇に腰掛ける、色素の薄い男。

前髪を揺らしながら、同期との会話を楽しんでいる。

できるだけ、断られないような人を選んだつもりで、

一直線に彼の前に進み出た。

「ねー。これ、預かってくれない?」

会話に集中していたせいか、ビクッと肩を震わせる。

私をちらっと見て、何も言わずに財布を受け取った。

(無口…。)

あの日。長い付き合いになるなんて思ってもいない私。

それとも、あの日。運命的なものを感じて、直感で彼を選んだのだろうか。

それとも、単純に。好みのタイプだったのだろうか。

いわゆる、どストライクってやつ。

今、思い返してみても、やっぱりわからない。




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