山神様にお願い


 龍さんが小鉢を二つ目の前に置いてくれる。私はパッと背筋を伸ばした。

「え、いいんですか?やったー!」

 仕事終わりにビールが飲めるのか、ここは!素敵だなあ!と感動していると、早速自分の分をジョッキに注ぎながら、ツルさんが言った。

「一杯はサービスでくれるのよ。それ以上は、給料から引かれるから気をつけてね~」

「成る程。一杯はタダ?」

「そう、一杯でも、疲れた後のビールは最高でしょ?」

 夕波店長が電卓を引き出しに仕舞いながら笑った。店の閉店作業をしている間、店長は売り上げを集計するのがいつもの流れらしい。

 はい~、最高です~!私は嬉しく生ビールを頂く。

「じゃあ、初日のシカに、乾杯だな!お前、頑張ったほうだよ。やっぱり最初から使い物になるのは男より女だな」

 龍さんがそう言いながら自分の分をぐいぐい飲んだ。

 バイト初心者の男なんて最悪だ、あいつらぼーっと突っ立って指示待ってるだけだからな、そう言葉が続く。

「それは良かったです」

 よかった、足手まといにはなっただろうけど、凄く酷かったわけではなさそう。私はホッと息を吐き出す。かなり嬉しい一言だった。

 頂きまーす!皆でそう言って、小鉢の惣菜を食べる。

 ツルさんや龍さんが私に質問を飛ばしてくるのに次々答えていた。

 二人とも好奇心むき出しで色々聞いてくるので最初は驚いたけど、その内笑えてきた。


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