朝一、阪上家へ電話した。

 電話に生徒である八雲君が出ることは、滅多にない。阪上家は完全な専業主婦家庭で、しかも母は毎日朝化粧をして素敵なワンピースを着、その上にこれまたハイセンスなエプロンをして家事をするというお宅なのだ。

 電話口にはいつでもお母様が出る。しかも、「はい、阪上でございます」と言った口調で。

「おはようございます、鹿倉です」

 そう言うと、明るい声で、あら、先生、おはようございます、と声が返って来た。

 いつもと同じだ。そこに何だか安心してしまった。

「当日に申し訳ないのですけど、今日のアルバイトはお休みさせて頂けないでしょうか」

 私がそう言うと、お母さんは少し黙った。そして、思い切った、という感じで話し出した。

『勿論構いません、今は夏休みですし、先生にも都合がありますでしょう。それはいいのですけど・・・あの、うちの八雲、また先生に失礼なことしましたでしょうか』

「え?」

 まさか、そんなことを言われるとは思ってなくて驚いた。・・・ええと、失礼なこと?ううーん、まあそりゃ色々と、公衆の面前で抱きつかれたとか、初対面の人を見下して攻撃したとか・・・ごにょごにょごにょ。

「阪上君が何か言ってましたか?」