もっと傷つけばいい
――唇かと、あたしは思っていた。

だけど彼の唇の温もりを感じたのは、頬だった。

――あたし、もしかしなくてもソウにキスをされたの…?

目を空けると、頬に感じた唇の温もりは離れていた。

「――ソウ?」

呟くように名前を呼んだあたしに、
「――“初めて”、なんだろ?」

ソウが言った。

今度は違う意味で、あたしの顔が赤くなった。

「ごめん、度が過ぎた」

ソウはあたしの頬に添えていた手を離した。

「じゃ、またくるよ」

ソウはそう言った後、あたしの横を通り過ぎた。

玄関から、ドアが閉まる音が聞こえた。
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