50音恋愛
や(い)ゆ(え)よ


【や】

*やめて*


私の付き合っている彼はとても優しい人だ。


私のことを一番に考えてくれるし

私が嫌がることは絶対にしない。


この間、キスをするのが怖くて


「やめて……」


っと言ってしまった時も


ピタッて止まって、笑顔で言った。


「今日はやめとこっか」


すごく嬉しかった。


「えっ、まだキスもしてないの?」


「あっ、うん……つい、キスする時にやめてって言っちゃうんだよね」


「それでやめてくれるの?」


「うん、すごく優しいから」


「でもそれじゃあ、いつまで経っても出来ないね」


いつまでたっても出来ない……。


確かにって、思った。


優しい彼が待ってくれるのは嬉しかったけれど、


ちょっとだけ、私って魅力がないのかなって寂しくなっちゃったり……。


そのことを友達に相談したら、


それを聞いていた仲の良い男子が言った。


「顔、近づくのに慣れとけばいいんだよ」


そういって私の顔にぐっ、と近づいたその瞬間


私の彼が教室に入ってきた。


ーはっ。


「……っに、してんだよ!」


そしたら彼がいつも全く見せない形相で


私の手を掴み、その男子を睨みつけた。


そして、教室から飛び出すと、彼は空き教室に入れた。


「あ、あのね!さっきの違うの……」


「何が違うの?」


いつもと雰囲気が違う。


と思ったら彼は私の顎を持ち上げて顔を近づける。


「やめ……っ」


「やめない」


まっすぐに、私を見て


強引に口付けを落とす。


「んん……っ!」


「他のやつとキスなんかすんなよ……」


初めてのキスは余裕のない彼と。


初めて見せる彼の表情が私の目に焼きついた。



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