翌日の日曜、私は普段はしたことない、携帯の着信を気にして歩いていた。


「バカみたい……」


大きな入口の前で呟くと、ずっと手にしていた携帯をカバンにしまった。

磨かれたガラスの扉をあけると、スーッと冷房のきいた涼しい風を感じた。


見慣れた店内だけど、いつもは正面からなんて入らないから。なんか違う感じ。
不自然にならない程度に店内を見回しながら、つきあたりにある階段を昇っていく。

そこはほぼ毎日訪れる、私の第二の“仕事場”だ。


「いらっしゃいま……あ! 阿部さん!」


そう言って、ショーケースに囲まれた中から、私をみつけて驚き喜ぶような瞳で顔を上げた。


「出勤してるかしらとは思っていたけれど……ちゃんと休みは貰ってるの? 神野さん」


白い手袋を外しながら、にこにこと神野さんは答える。


「回数はちゃんともらってますよ。ただ、たまたま今週はシフトの調整で連勤になっちゃってて……阿部さんこそ、お休みじゃないんですか?」


小首を傾げ、私の答えを待つ神野さんに、予め用意しておいた答えを言う。


「ただのひとりのお客としてきたら……なにか感じることがあるのかなぁと思って立ち寄っただけよ。昨日今日はどんな感じですか?」


素直な神野さんは、なにも疑いもせず、店内を見渡して言った。


「夏は世間でイベント事がないので……」


力なく笑う神野さんの奥で、なにか真剣に商品を選んでいるような女性組がいることに気がついた。


「かわいいでしょ?! 値段もそんなにしないし」
「これ、どうやって使うの?」
「この間聞いたら、インクにつけながら書くんだって」
「へぇー! 手紙とか学生のときぶりに書きたくなるかも」