「ああ。ロビーですれ違ったけど」
「えー! 生の“KANAME”見れたんですか! 超うらやましい!」
「は? なんで見てないのに『かっこいい』って言えるの?」


意味不明な言動に思わず森尾さんを見てしまった。
すると、彼女はなぜか得意げに、キラキラとうるさいくらいにデコレーションされたスマフォを私に突きだした。


「同期が写メくれたんですぅー」


ちらっと画面を覗くと、確かに昨日の要が写っている。
まさか社内でこんな隠し撮りをするような社員がいるなんて。


「盗撮じゃない。早く消しなさい」
「えぇー。だってあたしが撮ったわけじゃないですもん」
「そういう問題じゃないでしょ」
「……はーい。“あとで”消しておきまーす」


森尾さんは、スマフォを濃いピンク色のネイルをした指で操作しながらデスクに戻る。


……ああ、疲れる。まるで高校の教師にでもなった気分。
気を取り直してパソコンと対峙すると、背中に向かって言われた。


「阿部さんと神宮司さんて、なんかあるんじゃないですかぁ?」


私は強めにパスワードを打ち込み、森尾さんを見ずに答える。


「なにもないのでご心配なく」
「あたしは“KANAME”狙いにしますので大丈夫ですー」


予想をいつも上回る返しに、むしろ感服してしまう。
これ以上この子と話していても、言葉の通り時間の無駄だ。もう余計なことは答えないでおこう。

朝から余計なストレスを受け、それを早く忘れ去るように、と在庫データに向き合った。