情けない。あんなに普段は強気でものをいう人間が、いざとなれば言葉も出せないなんて。


顔を上げられない私は、繋がった手と、神宮司さんのシルバーの腕時計しか見られない。

眩しいくらいに光るその腕時計が秒針を刻む。まるで時間が止まってるように思えるこの瞬間も、ちゃんと動いているのだと教えてくれているように。


視点をそこから動かせられないでいる、余裕のない私を見透かしてしまったのか。

神宮司さんは「ふ」と笑って手を離した。


「今日は忙しいのに、“おつかい”ありがとな」
「え……? いえ……」


また突然なにもなかったかのような笑顔と声で言われて目を白黒とさせる。


「――続きは、“また”」


そんな私の耳元に顔が近付いてきたと認識したらすぐ、彼の低い声が鼓膜を揺らしてドキッとさせられた。

思わず赤くなっただろう左耳を覆って神宮司さんを見る。

ニッと笑って、手渡してくれるはずだった、床に落ちた名刺をパソコンの上に置いていく。
パタン、と閉じたドアを瞬きもせずに見ると、しばらくそのままでいた。

そしてようやく顔を正面に戻すと、キーボードの上へ視線を移す。
そこにあるのは【KANAME HONJO】と書かれたシンプルな白い名刺。


『また』――――その言葉に今日は心を揺らされる。