十分後。
タクシーが現れ、あたしと凌はそれに乗り込んだ。

向かったのは、すぐ隣の広尾だった。
歩いてもいける距離じゃないの? と思ったけれど、面が割れている凌と一緒に外を歩いて、なんやかんやと騒がれるのも困るので黙っていた。

ほんの数分走っただけで、タクシーが止まる。

そこから降りると、凌は近かったお詫びというように、タクシーの運ちゃんへお釣りは要らないと札を手渡した。

連れて行かれたのは、それほど大きくはないが、大人の雰囲気が色濃く漂うイタリアンレストラン。
外観も入った内装もすべてが落ち着いた色合いで、各テーブルには岸谷さんのところと同じようにろうそくの火が揺れていた。

「いらっしゃいませ、速水様」

年配の店員さんに案内されたのは、全部で八組あるテーブルの一番奥。
すでに案内されたそのテーブル以外は、すべて埋まっている。
客層は、酸いも甘いも知り尽くしたような大人ばかり。
着ている服も、履いている靴も、身につけているものは総て上質な物ばかり。

ここには、あたしのようにおちゃらけていて、浮っついた若者など来ないのだろう。