タクシーに乗り込んですぐ、財布を取り出す。
凌がくれた名刺を取り出し、裏に書かれた住所を運ちゃんに告げた。

タクシーの中から、すぐに行く、と凌にメールをしたけれど返事はなかった。

道路はひどく混みあっていて、おかげでタクシーはなかなか前に進まない。
僅かに焦る気持ちを抑えて背もたれに寄りかかり、ポケットの中に忍ばせてあったプレゼントを取り出した。

「今日中に、渡せるかな……」

小さな包みを見ながら、あたしは後部座席でポツリと自信のない声を漏らす。

英嗣は、タクシーを捕まえられただろうか。
それとも、タクシーは諦めて、周囲の視線も気にせずに電車に乗って帰っただろうか。

もしかしたら、あのプレゼントを渡すために、愛しい人の元へと向ったかもしれないよね……。

考えると、切なさに胸が苦しくなっていく。
気づいてしまった感情に、心が押し潰されそうになる。

あたしをタクシーへ乗るように促した時の英嗣は、とても寂しそうな顔に見えた。
けれど、それはあたしが抱える想いがそう感じさせただけのことかもしれない。
実際は、好きな人の元へ早く行きたい、と常に心は急っていたのかもしれない。

一人寂しく、風邪の苦しさに耐えている凌を心配しながらも、心の大半は英嗣の事ばかりを気にしていた。

凌の風邪ができれば軽いもので、すぐにでも英嗣のマンションに帰れる事を願っている。
たった一人の兄よりも、やっと気付いた自分の心が先走るのを止められなかった。