面倒くさい男だと、自分でも自覚はある。

三十歳にもなって、過去の出来事に捕らわれているなんて小さな男だ。

そう思っているのに、いつも「また裏切られたら――」という考えが頭を過り、人と関係を深められずにいた。

嘘をつかれればそこで終わりだし、信用できないと告げれば相手も嫌な顔をして去っていく。

恋愛や結婚は「興味がない」と言いながら、「もう誰かを好きになることは一生ない」と諦めていたのが本音だ。

しかし、詩織と出会って気持ちが変わった。彼女は俺が突き放しても、誤解してヒドイことを言っても、何度も感情をぶつけてきてくれた。

本当に、よくこんな俺を好きになってくれたもんだな……。

オムライスを食べ終え、洗い物をしている詩織の後ろ姿を見つめた。短い黒髪がサラリと流れ、華奢な腕で次々に食器を片づけていく。

……やっぱり、慣れない。自分の部屋に詩織がいることは、触れるだけで泣きだしてしまいそうな小動物がいるみたいで、どうしていいかわからない。

だけど、胸がくすぐったくなるほど嬉しいし、もっと大切にしたいと思う。

そんな感情を噛みしめながら詩織を見つめていると、食器を片づけ終えた彼女がクルリとこちらを振り返った。

「征一郎さん、コーヒー飲まれますか? 私、入れますよ」
「あっ、ああ……じゃあ、お願いしようかな」

……まずい。呼ばれる前に、バッチリ目が合ってしまった。ずっと詩織を見ていたこと、バレたかな……。

さきほども彼女の香りに引き寄せられて、うっかり近づきすぎてしまった。気を付けないと鬱陶しがられてしまう。

そんなことを考えていると、キッチンから「あっ」と小さな声が聞こえてきた。

「どうした?」

ソファから腰を上げ、詩織の元へ歩み寄る。彼女は空っぽになったインスタントコーヒーの空き瓶を片手に固まっていた。


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不器用  シンデレラ  番外編  SS 

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