神様の願いごと

「おーい! ちーせ!!」


ポン、と肩をたたかれて振り返ると、呆れたような笑い顔の紗弥が立っていた。

今からの部活に合わせてか、いつも下ろしているロングの髪はポニーテールに結ばれている。

シュシュはピンク。この間、一緒に買い物に行ったときに買ったやつ。


「聞いてたよ。提出忘れてたんだって?」

「うん、まあね……急いで書かなきゃ」

「先生、まじで家にくるからね。でも、そういや千世って、進路決まってるんだっけ?」

「ううん、まだ。だから出せって言われても、困るんだけどなあ」


広げたプリントを眺めながら、また陰気な息を吐き出した。


1年生の頃は、まだ具体的な部分までは求められていなかった。

進学希望か就職希望か。理系か文系どっちを希望か。そんな感じ。

わたしは就職なんてまだしたくなかったから、進学に丸をつけて出していた。それから適当に、数学が苦手だから文系を希望して。


だけど2年生に上がってからちょっと変わった。まだ、高校生活は半分も過ぎていないのに、もう卒業後のことを本格的に考えなきゃいけないようになっている。

卒業後って言うのは、卒業した直後の進路だけじゃない。もっとずっと先、大人になってから歩く、未来のことまで。


「紗弥はどの大学書いた?」

「あたし?」

「とりあえず同じとこ書いておこうかなって思って」


紗弥とわたしのこの学校での学力は同じくらい。中の下。わたしのが運動神経はいいけれど、紗弥は美術や音楽が得意。

あと人懐こくて積極性がある分、通知票ではちょっと負けてる。悔しいと思ったことは特にない。


つまり、一般教科でわたしと同レベルの紗弥が、非現実的な希望を持ってさえいなければ、同じ学校名を書いていても先生はため息をつかないはず。

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