本当の俺を愛してくれないか?
あの日から小森さんは私のことを『宏美ちゃん』と呼ぶ。
20歳を越えて異性からちゃん付けで呼ばれることに最初はむず痒く感じていたけど、今となっては嫌がらせじゃないかと思ってしまう。


「えぇー。あれはどう見ても小森さんは宏美が好きすぎてどうしようもないとしか見えないんだけど」


「なんでよ。普通に考えたらあり得ないでしょ?何度もタイプじゃない。無理って言っているのに毎週のように誘ってくるのよ?しかも公衆の面前で!
どう考えても私には嫌がらせとしか思えないよ」


ジョッキに残っていたサワーを一気に飲み干す。


「だからそれだけ宏美のことが好きってことじゃないの?端から見たら羨ましい光景なのよ?社内でも人気のある小森さんからあんなに求愛されている宏美が」


求愛って言われても、そんな言葉がピンとこない。
だってどうしてもわたしのすきって気持ちと小森さんの好きって気持ちが違う気がするから。


「だってさー...。普通は好きな人にはあんな風に堂々と接すること出来ないと思うんだよね」


少なくとも私はそう。
好きな人と話す時は緊張しちゃって。
だけど嬉しいから変になっちゃう。でも小森さんは違うでしょ?


「えー。それは宏美の意見であって誰もがみんな宏美と同じとは限らないんじゃないの?私はそう思うけどな」


「そう言われたって...」


それは困る。


「前から言ってるけどさ、私はやっぱり最上部長が好きだから...。最近ますます好きの気持ちが加速しちゃってるし」


「また部長!?もうさー、本当にいい加減部長のことは忘れなさいよね。これは宏美のためを思って言ってるんだからね!」


「私のためって言われても...。仕方ないじゃない。本当に好きなんだから」






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