「なぜ! なぜ私を死なせて下さらないのですか!」

戦いの中で、数えきれないくらい惨殺してきた男がいた。

彼は戦いとはいえ、悔やんでいた。 

彼は死にたかった。

荒ぶる波、断崖絶壁の上から彼は命を絶とうとした。

否、断崖絶壁から彼は身を投げたのだ。

普通ならば鋭利な岩肌、もしくは波にさらわれ、死ねるはずだった。

荒波へと飛び込んだ彼は宙に浮いていた。

そしてすぐ近くに髪も長いひげも真っ白な老人が浮いていた。

死にたいと願う彼。

「それほど今までの生き方を後悔しているのなら、もっとも力のある鬼にお前は生まれかわるのじゃ。そして、民の生活を助けなさい。いつかお前の希望通り死ねるはずじゃ」

不思議なオーラを纏う老人はそう言った。

「私が生まれかわる? 民を助ければ、私はいつか死ねるというのですか?」

「それはお前のこれからによる。阿倍清忠(あべのきよただ)の元へいけ。それからお前の名前は今日から紫鬼(しき)じゃ」

そう言い残し、彼の前から老人はスッと消えた。

長い黒髪だった髪はこの世では見たことがない紫色に変わっていた……。