赤ずきんは狼と恋に落ちる
赤ずきんは狼に出逢う



――薄々感付いていた。

どんなに鈍い私でも、女の勘というものはあるようだ。





しとしとと降る雨の音が、二人だけの部屋に響き渡っていた。

ぼんやりと窓の方を見つめた先には、カーテンの隙間から覗くポツポツとした小さな灯。




彼は、もう何度目かの大きな溜め息を吐いた。





「……最後まで面白くねぇ女だったな、りこは」





そんな事、私自身がよく分かっている。

貴方に言われなくたって、分かっているんだから。







――そんな風に、返せない自分の弱さがもどかしい。



「俺たち、別れよう」





彼はそう言って、席を立った。

ちらりと見えたその表情は、やっと重たい荷物を下ろせたような、疲労半分、嬉しさ半分といったところか。









バタン、とドアの閉まる音と共に、パチリと目を覚ました。



見渡せば、ここは近所のカフェバー。
突っ伏したまま、横目で腕時計を見やれば、丁度午前0時。


彼に別れを告げられた日から、もう1週間。







――ああ、そうだった。

私、振られちゃったんだ。



もう、終わっちゃったんだ。




「面白くねぇ女」




あのたった一言で、こんなにも呆気なく、彼と終わってしまったんだ。








――元彼の噂は何度か耳にした事はあった。



『大崎さんって、二股掛けてるらしいのよ』

『佐々木さん、遊ばれてるんじゃない?』

『可哀想にねぇ。大人しいけど、良い子なのに』



良い子なんかじゃない。

良い子だったら、彼の前で猫なんて被らない。






「私、本当にダメだな……」


「ダメ」。

自分自身、分かっていたはずのこの言葉。
口にした途端、1週間分の涙が、堰を切ったかのように溢れ出した。




あの夜彼が出て行った後も、会社では何もなかったように振舞っていた今日までも。

全く、泣かなかったのに。



何で今、泣いちゃっているんだろう。


慰めてくれる人なんて、誰も居ないのに。
涙を拭いてくれる人なんて、傍に居ないのに。



何で、止まってくれないんだろう。



惨めだ、私――……。











…きゃ……さ…
お……くさま……







……?







何か、聴こえる。



「お客様?」



声が聴こえた方を向けば、






「お客様?どうかなさいましたか?」








綺麗で、真っ暗な闇が



私の目を包んだ。


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