人知れず、夜泣き。


 口角を『これ以上上がらない』というくらいまで引き上げ、悟の元へ向かう。

 「いらっしゃいませ。 今日は何をお探しですか??」

 日頃培った営業スマイルを発揮しながら悟に声を掛けた。

 ワタシは今、上手に笑えているだろうか。

 「・・・婚約指輪を」

 悟が発した言葉に、喉の奥がツンとした。

 悟が、彼女と結婚する。

 3年一緒にいたワタシではなく、新しい彼女と結婚する。

 今にも滲み出そうな涙を、必死に堪える。
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