「は?今何って言った?・・・」
私は自分の耳を疑った。
「だからー、俺の奥さん役になってほしいって言ってんの」
やっぱり聞き間違いじゃなかった・・・・っていうのは
わかるんだけどね。
「うん、わかった・・分かったけどー式の一週間前に余興の変更すんの?
私歌じゃなかったっけ?」
しかも奥さん役ってどんなパフォーマンスよ・・・訳わかんない。
近所のカフェに呼ばれてコーヒーが届くまで何度驚いたことか・・・

「いや・・・余興とかじゃなくて・・・これマジな話。
こんなこと頼めるのお前しかいないし・・・」
目の前で尋常じゃない表情をしている男、椎名陸は私の高校からの友達で
一緒に2年前までバンドをやっていた。
陸はボーカル&ギターで私はベース、陸のルックスのお陰で、地元じゃ
わりと人気があったんだけどメンバーが大学を卒業して就職すると
会う時間が減って、今、活動は無期限中止状態だ。
その無期限中止状態の中、陸は結婚することになった。
メンバー内1号。

「マジって・・・マジの意味がわからん。ちゃんとわかる様に説明してよ」
大事な話があるからって言われて仕事抜けてきたんだから・・・
ちゃっちゃと話を済ませてほしい。
そう思いながら陸を見たが、何だか非常に言いにくそう様子だった。
その様子にまさか・・そんな事はないだろうと思いながらも
冗談ぽく言ってみた。
「まさか~~結婚できませ~~ん。ごめんなさ~い。なーんて
言われちゃったりして?」
そんな事はまずないという前提の元で冗談を言ったつもりだが
陸の顔が歪んで今にも泣きそうなのを見て
地雷を踏んだと気がついた。

「その・・・まさかだよ。笑いたきゃ笑っていいぞ。」
そう言われて、はいそうですか、ガハハって・・笑える訳ないじゃん。
泣きそうな男に聞くのは酷だけどとりあえず理由を聞いてみた。
陸はコーヒーをガン見しながら語りだした。

「俺と付き合う前からずっと好きな男がいたんだってさ。
 その男には1度振られているんだけど、心のどこかで
諦めきれない自分がいたんだと、俺と結婚するって事になっても
そんな気持ちのまま結婚できないから、もう一度だけその男に
今の気持ちと結婚をすることを話して過去に踏ん切りつける
ってその男に言ったらさ・・・・
その男、百恵のこと好きだって言いやがったんだよ。
そしたらさ・・・百恵の気持ちが爆発しちゃって・・・・
ただいま妊娠3ヶ月。もちろん子供の父親はその男。間違いないらしい」
「で?百恵さんは陸とはもう結婚できないと・・・」
陸は黙って頷いた。
「それを陸は素直に受け止めちゃったわけだ・・」
「仕方ないだろ?俺の入る余地ねーじゃん」
たしかに何処をどうこじ開けようが無理だね。
「それ・・・いつ言われたの?」
「3日前」
「は!?じゃぁ結婚式って・・・キャンセル・・・じゃないみたいね・・」
さっきの奥さん役と言うあたり・・・奥さん役ね~奥さん…役?

「ええええええ!ちょ・・ちょっとさっき言ってた奥さん役って
それって・・それって・・・私が百恵さんの代わりに陸の奥さん役やれってこと?」
「そういうこと・・・」
そう言う事って・・・ちょっと何考えてんの?
「ちょっと・・・そんなの無理だよ・・・そんな・・」
いくら陸の頼みとはいえ、出来ることとできない事がある。
今回は明らかに出来ない事。陸には悪いけど・・・・

「無理を承知で頼んでる。はっきり言ってもう後戻り出来ないんだよ。
 キャンセル料とか式に出席してくれる人とかさ・・・会社とかさ~」
聞いてるだけで恐ろしい・・・
実は何を隠そう私も同じ経験の持ち主だからだ。
「お前ならその気持ちわかるよな?」

・・・・そうきたか・・・

「陸、少し落ち着いて?話はわかったよ。でもさ実際、百恵さんの方の
式の出席者はどうなるの?」
すると陸の顔が少しだけ明るくなった。
「その点は大丈夫。百恵の両親からは半分出してもらった。
だからさ・・・春姫の方で友達とか誰でもいいから呼んでくれ。
ご祝儀なしで全然いいから」
だったら式場キャンセルした方がいいのでは?と思ったけど
どうやら陸の問題は会社での立場の様だった。
「とりあえず考えさせて・・・」
「マジ頼む。春姫がOKしたらちゃんと春姫の親にもちゃんと話する。
俺の両親連れて・・・」
陸が本気で花嫁役を欲しがっていることがわたった。
私は飲みかけのコーヒーを一気飲むと
「・・・わかったよ・・・ただし1週間だけよ」
陸に返事をした。