大学卒業後、私は旅行会社に就職した。
陸はもしかしたら本気でミュージシャンにでもなるのかと思ったのだが
大手食品会社に就職。
松田君は地方公務員。そして藤堂君はなんと家業の呉服屋を継ぐため
京都の老舗の呉服屋さんで修行中?

これだけ職種がばらばらだと練習もなかなか集まらない。
4人のうち3人はいい方だ。
ほとんど2人。しかもその2人と言うのが私と陸だ。
スタジオを2時間借りても練習らしい練習は1時間がいい方だ。


就職して半年くらい経った頃、私は会社の先輩で2つ歳上の紺野和彦さんと
お付き合いするようになった。
私が趣味でバンドをやっている事を紺野さんは知っているし、応援もしてくれてる。

そんなある日・・・珍しくメンバー4人がそろった。
こんなことはとても珍しい事だ。
大体、藤堂君が京都にいるってだけで4人そろうのは不可能だ。

4人揃うと練習にも気合いが入る。
大手食品会社に就職して毎日忙しそうにしているのに陸は3曲ほど
新曲を作ったと私たちにCDを配る。
「お前・・すげーな。あんな大きな会社で毎日遅くまで仕事してるのに・・・
まさか彼女ほっておいて曲作りなんてしてないよな・・・」
冗談まじりの松田君に陸は
「彼女?そんなの1カ月前に別れたよ。」
表情も変えずに言うあたり彼女と別れてもダメージなさそうだ。
学生の頃は特定の彼女を作らなかった陸だったが
最近は彼女と呼べる女の子がいた様だった。
別れたみたいだけどね・・・

彼女が出来てもすぐに次が見つかる様な所は相変わらずなのか
今回別れた彼女は3人目の様だった。
長続きしないのは相変わらずだが
それだけルックスがいいのだから仕方ないといえば仕方ないのだけどね・・・

最近では陸みたいなのをイケメンと言うらしい。

今回もそうだが、陸は私に今恋人がいることを知らない。
陸は興味のないことに関しては無関心だ。
今までそういった事を一度も聞かれた事がない。
私に彼氏がいようがいなかろうがどうでもいいという事らしい。
そう言うところは昔からかわってない。
でも私にはそれがちょうどよかった。
へたに首突っ込まれて失恋された時に同情されるなんて
冗談じゃないって思ってたから。
だから私も陸の恋愛には一切無関心を通した。
メンバーが女の子の話で盛り上がっててもね・・・

そんな私は1カ月後に初めて彼と旅行に行くことになっている。
最近はこうやって4人一緒に揃って練習なんてなかったから
昔の様に定期的にライブが出来ない。
だから当分ライブはやらないと思い
紺野さんからの旅行を二つ返事でOKしたのだが・・・

「次のライブが決まった。1カ月後の10月3日土曜日。みんな
頼むな」
突然、決定事項として話を進めている陸。
他の2人もうんうんとスケジュール帳や携帯にメモをしているが
私は納得できなかった。
何の相談もなく勝手に日程決められて・・・
私だって予定があった。
それなのに・・・
「私はその日出れないから」
3人の視線が一気に私に向けられた。
「なーんでよ」
「・・・・用事があるから」
陸に理由を聞かれたがそんな事言える訳ないじゃん。
大体、私に彼がいるのは3人には内緒だ。
彼氏と旅行で~す。なんて言えるか!
「用事って何だライブは夜だぞ。合コンか?それなら却下だ」
なんでそこで合コンになるんだよ。
それでも旅行とは言えなかった。
「別の日にしてほしい・・・どうしてもこの日は無理です」
申し訳ない気持ちを顔に出してみたが
「春姫には申し訳ないんだけど、俺の方が他の日無理なんだよ」
私よりも申し訳ない顔で藤堂君が言った。
京都にいる藤堂君と私・・・どっちが優勢かと言えば明らかに
藤堂君だよ。
私が旅行をキャンセルしたらうまくいくけど
私のプライベートはうまくいかなくなる!と思った。

これって究極の選択?
悩んでる私の気持ちなんかお構いなしに
陸はしつこく理由を聞いてくる。

考え抜いて出た言葉は
「旅行」
陸は即誰と!と聞いてきた。
「誰だっていいでしょ。プライベートなことよ」
だがここで私は失敗した。
この時友達と言っておけば突っ込まれることはなかったのに
プライベートなこと・・なんていうもんだから
ずっと黙っていた松田君の顔がゆるんだ。
「もしかして…それって彼氏とか?」
「な・・何言ってんの違うよ」
でもすでに遅かった。
顔に出てたみたい・・・

「へ~~春姫。彼氏いたんだ。そっか・・・彼氏と旅行ね・・・」
考えるよ言うな藤堂とは正反対に
「そんなくだらねぇ理由なら却下。ライブは10月3日決定だから
旅行はキャンセルしとけよ」
「陸!」
なんでくだらないとか言われなきゃいけないの。
女とっかえひっかえの陸には言われたくなかった
・・・そんな気持ちで陸の名を呼んだが
「俺は、お前と藤堂の意見を聞いて決めただけだ。
 俺からしてみればお前の彼氏より藤堂を優先しただけだ。」
「ごめんな・・・春姫」
藤堂君が手を合わせて謝ってきたが
私はいいよとしか言えなかった。
もちろん作り笑いを浮かべてね