明日、嫁に行きます!

「ごめんなさい……黙ってて、嘘吐いて、ごめんなさいっ……。もう、帰るから。帰ってちゃんと、」

 ――――ちゃんとサラに説明するから。

 込み上げる嗚咽を堪えながらそう伝えようとして、遮られる。

「帰さない。そう伝えたはず」

 鷹城さんは冷たい声でそう吐き捨てると、へたり込む私の腕をグッと掴んだ。そして、抗う私をずるずると引き摺りながら、そのまま車へと押し込んでしまう。

「な、なんで? 帰るって言ってんのに……お、降ろしてよ!」

 抗議の声をあげるんだけど、鷹城さんは私の言葉を一切無視してエンジンをかけた。

「鷹城さんっ! 降ろしてってば……っ」

 私は焦った。けれど、鷹城さんは無言で前を向いたまま、こちらをチラとも見ようとしない。
 車内に鉛のような重苦しい空気が充満して、混乱する頭が哀しみに沈んでゆくような心地がした。
 どうしようどうしようと煩悶しているうちに、マンションの地下駐車場へと到着してしまった。

――――どうしよう、本当に……。これ以上は、もう。

 このまま何事もなかったようにして戻ることは出来ない。
 私が悪い。充分わかってる。でも、これ以上、彼の怒りに晒され続けることは、私には耐えらそうになかった。
 どうすればいいのか、気持ちは未だ定まらないまま、私は意を決して外へ飛び出た。
 ドアを開けて走り出そうとした私の足がふわりと浮く。
 あっと声をあげた。
 私の腰に鷹城さんの腕が回り、逃走を阻まれてしまう。そして、そのままきつく抱き竦められた。
 身体ごと持ち上げられ藻掻く足が宙をかき、離してと叫ぶ私の口が、彼の唇で塞がれてしまって。
 口内を荒々しく蹂躙され、強張った身体から力が抜けていってしまう。

「くぅっ、……ん―――ッ!」

 くにゃりと大人しくなった私の口を手で塞ぎ、鷹城さんの肩に担ぎ上げられて、そのまま荷物のようにしてエレベーターへと連れ込まれてしまった。

「大人しくしろ。これ以上……僕を怒らせるな」

 いつもの丁寧な口調はそこにはなく、私の言葉を無視した無慈悲で乱暴な彼の行動に、私はなす術もなくて。
 ただ呆然と、鷹城さんを怯える眼差しで見上げることしかできなかった。

「何度言っても分からない、寧音は本当に愚かな女だ」

「きゃっ」

 玄関扉を開け、ドサッと放りだされて、私は背中をしこたま打ちつけた。
 痛みにうめく私に、鷹城さんはのし掛かるようにして私の両腕を押さえつけ、

「二度と逃げ出さないように、そのカラダに教えてやる」

 凶暴な眸で私を捉えたまま、ニッと片頬に冷たい笑みを刷いた。


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