境内にある桜の古木が、日に日につぼみを膨らませ始めた春の夕暮れ時、ひとりの男が鳥居をくぐってまっすぐ拝殿にやってきた。

 スラリとした長身に黒い燕尾服をまとい、見惚れるほど整った面には深紅の宝石のごとき紅い瞳。鮮やかな赤い髪が特徴的だ。

 拝殿の前では白い着物に水色の袴をはいた神職の青年が、着物を着た品のいい老女と共に待ちかまえていた。青年は、やってきた彼の正体をすぐに悟る。


「ザクロさんですね?」
「はい」


 穏やかな笑みを浮かべて赤毛の男は頷いた。


「祖父から伺っております。先ほど頼子さんがお見えになったので、そろそろいらっしゃるころだと、お待ちしておりました」

「頼子は何か言っていましたか?」

「とても幸せな一生だったと。あなたのことをよろしくとお願いされました」

「私もとても幸せな日々を過ごすことができました」


 そう言って満面の笑みを浮かべた男の姿が、次第に薄くなり霧のようにかき消えて行く。やがてその姿がすっかり消えてしまうと、青年は隣にいる老女に視線を送った。

 老女は懐から白い袱紗(ふくさ)を取り出し、先ほどまで男が立っていた地面にしゃがむ。そして袱紗を地面に伏せて何かをつまみ上げた。

 拾い上げられた白い袱紗の上には、怪しい艶をたたえた深紅の繭がひとつ。



(完)


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