ケーキのとがった角をフォークの先でちぎって口に入れる。クリームのとろける甘さとラズベリージャムの酸味が絶妙で、思わずため息が漏れた。

 続いてトッピングのブルーベリーをクリームと一緒に口に放り込んで堪えきれずにうなる。


「うー、おーいしー」
「ありがとうございます」


 ザクロは嬉しそうに笑顔で頭を下げた。

 最近は会社が休みの日に、ザクロがお菓子を作ってくれる。特に今日は気合いを入れてくれたようだ。

 なにしろゆうべ、私が落ち込んで眠れずに彼に甘えてしまったからだろう。

 出会った頃のザクロなら、私が落ち込む原因になった彼を排除しに行ったかもしれない。
 けれどそういう行為は、私を益々落ち込ませるのだと何度も言い聞かせたので、最近は原因を排除するより、私を浮上させることを優先するようになった。

 おいしいものであっさり浮上する私は、ザクロにとってもお手軽だと悟ったのかもしれない。
 私にとっても、ザクロの思惑がどうであれ、おいしいものが食べられるなら問題ないのだ。

 ケーキを食べる私を見つめながら、ザクロが独り言のようにつぶやく。


「ベリーって木苺のことなんですね」
「うん。山にもあったでしょ?」
「ええ。でも私が知っているのは赤と黄色でした。味も違います。これは外国のものなんですね」
「うん」
「昔に比べて食材がたくさん増えていて驚きました」


 確かに江戸時代が終わって、海外との貿易が増えたから、昔に比べて食材は豊富になっただろう。

 ケーキに載ったベリーを見つめるザクロの瞳に、なんとなく郷愁を感じて私は問いかけた。


「ザクロ、山に帰りたい?」
「いいえ。私の居場所は頼子のいるところですから」


 きっぱりと答えて、ザクロは微笑む。

 やだ。なんかきゅんとしちゃった。
 少しどぎまぎしながら、私は慌てて視線を逸らす。

 早朝からたたき起こされたり、見合い話を持って来られたり、色々うっとうしいので滅多に実家に帰らないが、ザクロのために、もう少し頻繁に帰ってみようかなと決意した。



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