私たち、政略結婚しています。

「あの…」

私が言いかけると、克哉がくぐもった声でぽつりと呟いた。

「…俺……気付かなくて…」

私はどうしたらよいか分からなくなっていた。
このまま強がってさらに嘘を並べればいいの?

一緒に私も泣いてしまいたい。
その身体を抱きしめて、謝って、嘘だと告げたい。

ずるいよ。
きっと本当に悲しいのは私の方なのに。
あんたみたいな偽善ではないのよ?

克哉の幸せのために、せっかく決心したのに。

私は、手にしていた財布を、ギュッと握った。

「嫌いよ、あんたなんか」

渾身の力を振り絞って言い捨てた。
そのままその場を離れる。

しばらく歩くと、後ろから克哉の声がした。

――「…俺は、好きだった」


泣かないつもりだったのに、彼の最後の優しさに涙が零れた。
でも、振り返らなかった。





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