愛してもいいですか
2.溢れる可能性
季節が少しずつ秋になり出す、九月末のある日。いつも通りの静かな社長室で、私は書類を手にうーんと頭を悩ませる。
手元の紙には『空間デザインコンテスト』の文字。
空間デザインコンテスト、それは各デザイン会社からテーマに合わせた内装のデザイン案を出品し競うといった、それぞれの会社のデザイン性が試されるコンテストだ。
優勝すれば専門誌に載るし、会社も個人も業界で名前を覚えて貰えるチャンスになる。
各社から選出する代表者は、一名。ここ数日、その代表者選びに私は頭を悩ませている。
ようやく二人までしぼれたけど……どちらにしよう。実力があり、過去に他のコンテストでも結果を出したことのある中堅社員か、まだ実績はないけれど才能を感じる新人社員か……。
どちらを選ぶべきか、何度頭を捻ってもなかなか結論が出ない。
「かーよさん」
すると突然呼ばれた名前に顔を上げると、トン、と眉間に触れる指先。
それはカップを手に持ち目の前に立つ日向の指で、突然のことに少し驚く私にその顔はふふと笑う。
「眉間にシワ、寄ってますよ」
「……ご指摘どうも」
骨っぽく長いその指をバシッと叩き払うと、日向は苦笑いで私の前にカップを置いた。愛用の水色の無地のマグカップの中には、湯気のたつ熱いお茶。