もう一度、最初から
*その9*
*****

ヴゥーーーーーン……

あたし、車に疎くて。車種とかは勿論、ランクとか全然分からないけれど。

この車が、高いんだろうなっていうのは分かる。

座り心地のいいシート。

聞こえてくるエンジン音の静かさ。


窓の外を流れる夕暮れの景色は、ちょっと切ないけど嫌いじゃない。

「今日は、急だったのに、すみません」

「……いえ、元々迷惑かけてるのはあたしなんで」

「……」

「……」


丁度用事が終わったので、乗せていく、というエノキの台詞は、まるで中学生の言い訳のようで。

あたしは、コンビニ帰りにしては大きめのビニール袋を、夏仕様のかごバッグの後ろに隠すようにして、乗り込んで。

やっとこの会話が出た頃には、もうアパートは目の前。
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