天使の足跡〜恋幟








客薄になったレジの前に、商品とともに憎たらしい笑顔を置いた男は。


「太田くん、お疲れさ~ん」


……誠に残念ながら、剣崎恋助である。


「いらっしゃいませ……こんばんは」


癒威は冷たい目線で一瞥すると、バーコードを読み取っていく。


「こんなとこでバイトしてんの? 部活は?」


目も合わせず、淡々と仕事をする。


ペットボトルが2本、弁当が2個……2人分の食事だ。

相手は誰だろう? 織理江さんかな……? 


「温めますか」


と無表情で訊ねた。


「冷たー。俺、もしかして嫌われてる?」


無視。


なぜか分からないが、この男は好きになれない。

いや、むしろ嫌いだ。

なんというか、気安すぎるところが。


「酷いなー。まあ、ええけど」


次の商品は……


……ケーキとプリン。


バーコードを読み取る手が止まってしまう。


癒威の視線を追って疑問を悟った剣崎は、ニコニコ答えた。


「ん? ああこれか、うまそうやなぁ思て」

「織理江さんが食べるんですか? 織理江さんが食べるんですよね?」

「俺の。織理江は甘いモン食わんからなあ、『お前は甘党か!』て、キモイ言われんねん。おかしいやんなあ?」

「どうでしょう……」


ぶっきらぼうに返事をし、袋に詰めていく。

会計して、つり銭を返して袋を渡した。

その際に、剣崎がその手を見つめた。


「太田くんて身長の割りに、手、華奢やね」

「すみませんね、『男』のくせに頼りなくて」


剣崎は、真っ直ぐに癒威の瞳を見下ろした。


「“天使”──みたいやな、太田くん」


ドキリと、胸が大きく打つ。

こちらの匂いを嗅がれている感じがした。
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