渋谷33番

 渋谷警察署は何度か建物の前を通ったことがあったが、雪乃をのせた車は表玄関ではなく地下へと入っていった。
 地下には8名ほどの警察官たちが立っていて、到着と同時に車に集まってきた。どの顔も、怖い形相に思えてしまう。

 両隣を刑事にはさまれていた雪乃の両手に、降りる直前に手錠がはめられた。

 手錠は真っ黒な色をしており、よくドラマで見かける光沢のあるシルバーではなかった。

 車のドアが開き、外の警官が口々に「~確認!」などと叫んでいるが、それが何なのか分からないまま、雪乃はなかば強引に車から降ろされた。

 すぐに手錠の間にロープを通され、腰で1周したものを後ろで結われる。

「ついてきて」
女刑事を先頭に、行列が渋谷署内へと移動してゆく。

「これって、現実なんだ・・・」
思わずこぼれた言葉に、横を歩く刑事が、
「ご愁傷サマ」
と、前に視線を合わせたまま興味のない口調で言った。



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