弁護士先生と恋する事務員
ロマンチスト
チリン、チリン、チリン……
柴田さんが出してきた気の早い風鈴が、夏を告げる。
お仕事を休憩して、みんなは買ってきたアイスに齧りついていた。
「ふわぁ~、まったく、今日は真夏だな」
「ガリガリ君って美味しいですね」
両先生は午後からも、地裁へ出向かなければいけない忙しい日だ。
激務の合間の一休み。
少しでも、クールダウンできればいいな。
「ねえ、先生?」
柴田さんがチョコミントバーのチョコレートコーティング部分をバリバリと噛み砕きながら剣淵先生に話しかける。
「何、柴田さん。」
「その人って、ずーっとこのまま姿を現さないつもりですかね。」
「ん?」
何の事、というように先生は眉を上げた。
その一瞬の表情が、以前ミニシアターで見かけた50年代のアメリカ映画で活躍した名優によく似ていて、ドキリとする。
「“S.S”さんですよ。さっき詩織ちゃんとも話してたんだけど、もうかれこれ三年になるわよね。」
「三年……?そうか…そんなになるんだなあ…」
先生は記憶をたどるように窓から見える空を見上げた。
「ねえ先生、もしも、よ。その人が目の前に現れたらどうします?」
「あん?」
「『私がS.Sです』って、事務所を訪ねてきたら、先生どうします?」
柴田さんは、私にとってはドッキリするような鋭い質問を
ストレートに投げかけた。
(ちょっとぉー柴田さん!そんな事さらっと聞かないでよ~…)
先生がなんて答えるのか聞くのが怖くて、心臓がドキドキと速度を上げた。
質問した柴田さんはもちろん、安城先生も、剣淵先生の答えに注目している。
もしも…『紫のバラの人』が、先生の目の前に現れたら、先生はどうするの―――
「そりゃあもちろん」
先生の答えに、皆がゴクリと唾を飲み込む。
「求婚するさ。」