鐘つき聖堂の魔女
◆とある国へもたらされた噂
時間は少し遡り、リーシャがちょうど宮殿へと赴いた頃。
時を同じくしてとある国でも定例の会議が開かれていた。
雨が降りしきる薄暗い昼間、その部屋に集まった者たちは皆手元の資料を睨みながら机を囲んでいた。
半数は深緑の服を纏い、背中には蛇が巻き付いた十字架の刺繍を刻み、首には銀でできた鎖と背中に刻まれたものと同じ十字架が下げられている。
「…以上でございます」
厳かな雰囲気の中、資料を読み上げていた男がごくりと生唾を飲んで顔を上げた。
深緑の服を纏った者たちの視線が一斉に一番奥の席に座る男に集まる。
ひとり肘掛椅子に座る男は部屋に集まった者たちの誰よりも若く、精悍な顔つきをしていた。
しかし、会議の議題に関心がないのか、男の前に積まれた資料は綺麗に整ったままだ。
皆の視線が自分に集まったことで、男は長い背もたれに預けていた身を起こし、組んでいた腕をほどく。
「却下だ」
そういって机に放った資料の議題には“魔女居住区の建設について”とある。