鬼部長の優しい手



「す、“すみません”禁止、ですか…っ!?」

「部長命令だって言ったろ?」


あわてふためく私とは裏腹に、
部長は、まるでいたずらっ子のように
けらけらと笑う。




部長、すごく楽しそう…


部長とご飯に行ったあの日から、
部長は少し表情が柔らかくなった気がする。




…そのことに私が関わっていたら
すごいな、なんて
おかしな妄想をしながら、部長の
次の言葉を待つ。





「…で、実は七瀬に渡したいものがあってな」

「渡したいもの、ですか…?」

「ああ。お前、最近頑張ってるから
なにかやろうと思ったんだが…その…
女の喜ぶものなんて、わからなかったから花屋で適当に買ってきたんだが…
その…要らなかったら言ってくれ」





お花を?部長が、私に…!?





部長の発言に驚きを隠せない私。
そんな私をよそに、部長は
手元に持っていた小さなブーケほどの
花束を私に見せた。







「知り合いの花屋に頼んだんだ。


いつも、お疲れ様。
お前の最近の働きには、感心している。

ご褒美だ」




そう言って部長は、その花束を私の方へ出し
またにっこりと微笑んだ。






…ほんとに、これが
あの塚本部長なの!?


仕事の時とのギャップに私は目を見開く。


正直、私は花があまり好きじゃなかった。
手入れなんて、大雑把の私は
得意じゃないし、
ちゃんと手入れしてあげないと
花も可哀想だし。


でも、部長から貰ったこの小さな花束を
こんなに愛しいと思う日が来るなんて…


あの、鬼部長なのに…






この人は…仕事以外のことになると
のんびりしてるというか、
マイペースというか…ほんっとに、












…最近は部長に心をかき乱されてばかりだ。
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