幸せの花が咲く町で




「なっちゃん、さっき、篠宮さんに何渡したの?」

「うん?あぁ、バイト料とお礼。
やっぱり、そういうことはちゃんとやっとかないとね。」

なっちゃんは、こういう所は本当にしっかりしている。
特に最初の日は、小太郎を助けてもらった上に、僕のせいでその後の花屋の仕事も離れることになってしまったのだ。
夕食を振舞うだけでお礼をした気になってた僕は、どこか少し恥ずかしい気がした。



「そっか~……確かにそうだね。
気が利かなくてごめんね。
そういえば、お花の月謝っていくらくらい払えば良いと思う?」

「そうだねぇ……あんまりたくさん払うと向こうも却って気を遣うだろうし……
やっぱり、香織さんと相談して決めた方が良いんじゃない?
普通のスクールよりは安めにしてもらって、その分、夕食をご馳走するとかなんとかして……」

「そうだね。じゃあ、そうするよ。
ところで、なっちゃん……篠宮さんの家庭のこと、聞いたことある?」

「この前ちょっとだけ話したことがあったんだけど、あんまり話したくないみたいだったから……」

さっきも、家のことが話題に出なかったのは、きっとそういう事情からだったんだと思った。



「やっぱり、そうか~……
で、なっちゃんは、何を訊いたの?」

「うん、旦那さんは何してる人?って訊いたら、香織さん、なんかすごくそわそわしてね。
だから、きっと訊かれたくなかったんだろうなって思って、すぐに話を変えた。」

「あんまりうまくいってないのかな?
さっき、篠宮さん…この数日間、すごく楽しかったって言ってくれたよね?
その時、なんだかそんな風に感じたんだ。」

「私もそう思った!
でも……香織さんが話すまではこっちからは訊かない方が良いよ。
誰にだって、訊かれたくないことや話したくないことはあるからね。」

「……そうだね。」




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