世界でいちばん、大キライ。
「……ま」
「桃花さんっ……!」

桃花よりも先に口を開き、駆け寄ってきたのは麻美。
今まで事前に久志を通して連絡をもらってから来ていたから、今回のように不意打ちなのは初めてだ。しかも、久志とあんな別れ方をしたあとなのだから、余計に混乱してしまうのも無理はない。

久志がわざわざ自分とのことを麻美に説明しているとは微塵も思わないが、勘のいい麻美のこと。なにかしら、このぎこちない関係を悟っていそうで言葉を選ばなければ、とも頭を抱えてしまう。

麻美はそんな桃花を真っ直ぐと見上げて、真剣な眼差しを向ける。

「……今の外国人……ただのお客さん? それとも……」

こんなときの麻美は、本当に小学生とは思えない表情(かお)をする。
大人顔負けの、張り詰めた雰囲気を纏いながら刺すような視線を突き付けてくる。それは、近い将来の麻美の姿を彷彿とさせるようなものだ。
だからこそ、桃花は今回もまた、子ども扱いなんか出来るわけもなく、そっと目を伏せた。

「……よくわからないけど、私をかってくれてる人。誘われてるの……シアトルに行かないか、って」
「シ、シアトル? それって……」
「アメリカだね。麻美ちゃんと一緒だ」

苦笑を浮かべて、幾分か落ち着いた桃花がおどけるように言ってみせる。
しかし麻美にはそれに乗っかるほどの余裕はない。

「いつ?! っていうか、行くの? もう返事しちゃったの?」

問い質す麻美は、桃花が仕事中だということも忘れてグイグイと距離を詰める。
目を一瞬大きくさせた桃花は、「ふ」と小さく笑って柔らかく口元を緩めた。
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