王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「ウェンディ、もし嫌なことがあったらすぐに言って。無理して長居しなくてもいいんだよ」


ウェンディより少し暗いブロンドの髪と深緑の瞳をしたエドガーは、妹に甘く、父親同様に過保護である。

彼女が結婚しなければ困るのはエドガーなのに、舞踏会に行きたがらない妹を叱るどころか、邸にとどめて甘やかそうとするのだ。


ウェンディはそんな兄に苦笑して、ゆるく首を振った。


「ありがとう。でも大丈夫です。今夜は身分を隠しての仮面舞踏会だって、招待状に書いてありましたもの」


それに、あれ程までに丁寧な招待状を国王から直々に送られれば、欠席するわけにはいかなかった。


領地にいる父は根っからのコールリッジ家の男で、本当は優しいのだが、頑固で融通の利かないところがあり、厳めしい顔つきをしている。

そんな父だから、王家に対する印象も良くはなく、謀反を考えるほどではないが従順とも言えないのだ。

300年前にはちみつと伯爵の身分だけを与えられて王都から閉め出された祖先の想いを大切にし、良く言えば誠実で真面目、悪く言えば古めかしい父だ。


今回の招待状すらもウェンディのことを思うあまりに破り捨てようとする父を、母と兄が必死に宥めたのだった。
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