倦怠期です!
「あのぅ中元課長」
「なに?」
「今私、そこまで忙しくないので、発注伝票1枚くらいなら書く余裕はあります」

「戸田さんとは違って」とはあえて言わなかったけど、相変わらず机回りをゴチャゴチャ散らかしている戸田さんの席と、焦り気味の戸田さんをチラッと見た中元課長は、ため息を一つついたので、どうやら私と同じことを思ったらしい。

「それに、手伝える時は手伝っておかないと、結局後で私にお鉢が回ってくるし」
「そうだよなぁ。じゃあ戸田のそれ、書いてあげて」
「はいっ」
「ありがとーすずちゃんっ」と言う戸田さんは、すでに立ち直っているように見えるけど、もしかしたら忙しすぎて、すでに頭の中がショートしている状態かもしれない・・・。

「お礼はいいので、商品番号の台帳、こっちにください」
「あぁうんっ。ちょっと待って。えっとどこ置いたかな・・・」
「契約伝票の下・・そっちじゃなくて反対・・それです」

「商品番号の台帳はみんなで使うものだから、使ったらちゃんと戻しておいて」と前、倉本さんから注意されたばっかりなのに。

因幡さんが私のお兄ちゃんなら、戸田さんは弟みたいに世話が焼ける。
戸田さんは私より6つ上の24歳だけど。
ジュリアナ東京で知り合ったという読者モデルをしている戸田さんの彼女は、きっと世話好きに違いない。

「即納でいいんですよね?」
「うん」
「工場指定は前と同じですか?」
「うん・・あ違う。茨城のほう」
「分かりました。これ打ち終わったら、高原さんにファックスしておきますね」
「よろしくーぅ」

以前、工場のコードを間違って入力したこともあるし(もちろん戸田さんの記入ミス)、「打ち終わった紙、ファックスしてください」って高原さんに言われていたことをすっかり忘れていた戸田さんのおかげで、「なんでファックスくれないの?」と、私が高原さんに怒られたこともある。
以上の教訓から、戸田さんに関する仕事は、極力周りを巻き込んだほうがいいと結論づけた私は、「高原さん、いつもすみません」と心の中で思いながら、発注済の用紙をファックスしに行った。





ちょうどファックスをし終えた私がクルッと後ろをふり向いたとき、小沢さんと有澤さんが一緒に歩いてきた。
二人ともジャケットを着て、カバンを持ってるから、メーカーへ出向くか、外回りの営業をしに行くんだろう。

「いってらっしゃい」
「はーい。すずちゃんも飲める忘年会場探しにいってきまーす」
「誕生日迎えても、私はまだ未成年ですけどー」
「あぁそうだった。すずちゃんって、時々戸田より年上に見えるよね」と小沢さんに言われた私は、ついプッとふき出した。

小沢さんの隣にいる有澤さんもニヤニヤしている。
ってことは、誰が見ても、私と戸田さんコンビって、「姉と弟」的に見えてるんだろうか。

「すず」
「はい?」
「12月の18日、同期で忘年会しよ」
「あぁ、はい。いいですよ」
「水沢にはもう言ったから」
「あ、そう」

なんか有澤さん、同期忘年会をする気満々だ。
でも、こういう口実でも設けない限り、同期でごはん食べる機会なんてないしね。
そこはボスザルのボス的な仕切りに感謝しなくちゃ。

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