倦怠期です!
タハラ商事では、12月10日に冬のボーナスが支給されるので、産業部はその後の金曜日に忘年会を開く、というのが習慣化しているそうだ。

今年の忘年会の幹事は、因幡さんと小沢さん。
たぶん来年は、私と有澤さんが幹事をすることになるんじゃないかと、中元課長が言っていた。

二人が選んだ居酒屋は、20人以上いる産業部全員が十分入れる広さのお座敷で、酒類も食べ物も充実している。
未成年は私しかいないけど、戸田さんみたいに飲めない人もいるので、ソフトドリンク類の完備も怠っていないのはさすが。
私は、一度だけ課長や部長にお酌をすると、後は大好きな蟹を食べることに集中した。







場が大分盛り上がってきたところで、カラオケマシーンがいつの間にかセッティングされていた。

「すず、おまえがトップバッターだ。行け」と因幡さんから耳打ちされた私は、「いやですっ!絶対嫌!」と全力で否定した。

歌がド下手な私が歌えば、盛り上がってきた場が急降下するのが目に見えている!
それに私は、中学の頃はもちろん、商業高校時代も、学校の帰りに友だちとカラオケボックスに行く、なんて「寄り道」をしたことがない。

一度も。

学校が遠かったというのもあるけど、カラオケだけじゃなくて、友だちとファーストフード店に行くとか、遊びに行くとか、そういうことをしたことがないのだ。

必死に嫌がってる私を即席ステージに連れ出そうと、因幡さんが私の腕を掴んだそのとき。
「じゃあ俺歌いまーす!」と言う有澤さんの声が聞こえた。
と思ったら、有澤さんはもう即席ステージに上がっていた。





「驚いた。有澤くんって歌上手いのねぇ」
「俺、大学のときロックバンドのボーカルしてたんですよ」

・・・それは新人研修のときに、有澤さんが教えてくれたから、私も知っている。
有澤さんは、お世辞抜きにして、本当に歌が上手い。
研修中、何度か行ったカラオケボックスで聞いた有澤さんの歌声に聞き惚れたのは、私だけじゃないもんね。
おかげで、良く通る低い歌声が、たちまちこの場を魅了しただけじゃなく、この場をさらに盛り上げてくれた。

あぁ有澤さん!本当に助かった!ありがとう!!

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